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月別アーカイブ: 2025年12月

株式会社NSK~FRP防水(ガラスマットの選定と積層)~

皆さんこんにちは!
株式会社NSK、更新担当の中西です。

 

FRP(Fiber Reinforced Plastics)防水は、樹脂+ガラス繊維でつくる“軽くて硬い連続防水”。バルコニー・庇・開放廊下で採用が多く、立上りの折返しやディテール追随に強い一方、施工時の化学管理(硬化・温度・臭気)と積層技術の巧拙が寿命を左右します。本回は、ガラスマットの目付け選定/積層順序/角部の増し張り/硬化管理/仕上げまで、現場でそのまま使える“型”を解説します。

 

1. FRP防水の基本構成と特徴
• 構成:下地(合板・モルタル等)→プライマー→パテ・不陸調整→積層(マット+樹脂×複数回)→トップコート(UV・耐汚染)。
• 樹脂:不飽和ポリエステル(UP)またはビニルエステル(VE)。VEは耐薬品・耐水性に優れ高価。UPは一般的で扱いやすい。
• 強み:
o 硬質で歩行・局部荷重に強い。
o 立上り200mm以上の折返しが作りやすい。
o 役物・見切り金物と一体化しやすい。
• 注意:
o スタイレン臭気・MEKP(硬化剤)取扱いの安全管理。
o 温度・湿度・露点差で硬化性が大きく変化。
o 下地動きに対してはクラック追随力が低いため、目地・可とうシールとの役割分担が重要。⚠️

 

2. ガラスマットの“目付け”選定(g/㎡)と役割
• チョップドストランドマット(CSM):450、600、300g/㎡が一般的。
o 300g:薄手・追従性◎。角部・立上りの一層目や段差馴染ませに。
o 450g:標準。面のベース層に最適。
o 600g:厚み確保・高強度が必要な部位。広面では樹脂量・発熱管理に注意。
• サーフェスマット:仕上げ前の平滑化・ピンホール抑制。
• ロービングクロス:高強度・方向性あり。局部補強に限定して使う。
配合の考え方: – バルコニー標準:CSM450×2層+サーフェス。 – 歩行・局部荷重が大:CSM600+450等で総量増し。 – 立上りや出隅入隅:300→450の順で追従→厚みを両立。

 

3. 樹脂・硬化剤(MEKP)の取り扱いと可使時間 ⏱️
• 配合比:樹脂100に対しMEKP1.0〜2.0%(気温で調整)。高温→低め、低温→高め。
• ポットライフ:20℃で15〜25分(目安)。一回の調合量は使い切れる分だけ。
• 撹拌:低速で気泡を入れない。容器壁・底の撹拌ムラをなくす。
• 発熱(エキソサーム)管理:厚塗り・一括大量調合は急激発熱→収縮・割れの原因。小分け×層数で制御。

 

4. 下地とプライマー—“FRPは素地勝負”
• 木質(合板):
o 含水率12〜15%以下目安。端面(木口)は吸い込み大→エッジシーラー多め。
o ビスピッチは細かく(@150〜200mm)締結。段差・目違いはパテ+サンディングで平滑。
• モルタル・RC:
o レイタンス除去→脱脂→乾燥。含水高い場合は通気期間を確保。
o エポキシ系orポリエステル系プライマーで封止し、ピンホール対策。
• 既存FRP:
o #80〜120サンディング→アセトン拭き→樹脂プライマー。チョーキング・油分は徹底除去。

 

5. 積層の標準手順(面→立上り→面)
1. 清掃・養生:埃・油分ゼロ。立上り・ドレン・入隅を重点に。
2. プライマー塗布:希釈・塗布量・オープンタイム厳守(第5回の要領)。
3. 目違いパテ/不陸調整:3m定規±3mm以内目標。入隅R10〜20mm。
4. 積層1層目(CSM300/450):
o 樹脂を先に床へローラーで“濡らし”→マット敷設→含浸ローラーで白い繊維が消えるまで含浸。
o エア抜きローラーで泡を端へ追い出す(“パチパチ音”がなくなるまで)。
5. 積層2層目(CSM450/600):
o 硬化後のアラレ・バリを研磨→清掃→2層目含浸。重ね幅50mm以上を厳守。
6. サーフェスマット:仕上げ前の平滑化・ピンホール抑制。
7. 中間研磨→清掃:粉塵残りは外観不良・剥離の母。必ず吸塵→脱脂。
8. トップコート:顔料入りポリエステルorウレタン。パラフィン添加(空気硬化阻害対策)やノンスリップ骨材の有無を選定。
層間時間:指触乾燥→研磨可能になってから次層。オーバータイムを超えたら必ず足付け研磨+脱脂。

 

6. 角部・立上り・役物の“勝ちパターン”
• 入隅R:先に樹脂パテでR成形→CSM300で追従→上から450で厚み確保。
• 出隅:コーナーパッチ(予め切っておく)→対角重ねで応力分散。
• ドレン:改修用一体型フランジに積層をかぶせて一体化。サドル形成で滞水ゼロ(第3回参照)。
• 笠木・見切り金物:水返し形状の金物を使い、FRPをかぶせ納め。ジョイントは二面接着+積層で二重化。
• 貫通部:スリーブ+止水リング+積層包み。温度伸縮に備え、周囲200mm幅で+1層。

 

7. 硬化・気象管理—露点と温度が命 
• 温度:10〜30℃が目安。高温→ポットライフ短縮/低温→硬化遅延。日中高温時は早朝・夕方施工へ。
• 湿度:85%以下。露点差3℃以上。霧雨・結露は施工中止。
• 風:スタイレン臭気の拡散に注意しつつ、埃の巻き込みを避ける養生を。
• 硬化確認:指触→爪跡が付かない→研磨可→次工程。未硬化上への上塗りはベタつき・白化の原因。

 

8. 仕上げ設計—トップコート・ノンスリップ・色
• トップコート:UV・汚染・耐候性。フッ素・ウレタン系が長持ち。
• ノンスリップ:骨材(#16〜30)を散布 or 混入。廊下は濡れた靴でも滑らない粗さを確保。
• 色:明色は温度上昇を抑える。濃色は熱・収縮で微細ひびに不利。
• 端部見切り:水の戻り込みがない“水返し形状”で美観と清掃性を両立。

 

9. 品質管理(ITP)—数値・写真・試験片
• 樹脂使用量(kg/㎡)を層ごとに記録。過少=ドライスポット、過多=発熱収縮。
• 厚み:積層後の参考厚を端部で測定。必要に応じ試験片を作成。
• 外観:気泡・ピンホール・筋・段差・色むら。光を当てて斜視確認。
• 付着:テープテスト→必要に応じプルオフ。

 

10. トラブルとリカバリー
• ピンホール:
o 原因:ドライスポット・含浸不足。
o 対策:サーフェスマット+再含浸、トップ前にサーフェスパテで埋め。
• 白化(空気阻害):
o 原因:パラフィン不足・露点未管理。
o 対策:研磨→脱脂→パラフィン添加トップで再仕上げ。
• ファイバー露出:
o 原因:研磨過多・樹脂不足。
o 対策:追加含浸→サーフェス→トップ。
• 収縮割れ:
o 原因:厚塗り一発・発熱。
o 対策:小分け×層数。割れ部はVカット→再積層。
• 付着不良:
o 原因:脱脂不足・粉塵・含水。
o 対策:全面研磨→脱脂→プライマーからやり直し。‍

 

11. ケーススタディ
11-1. ベランダ手すり脚が多い複雑ディテール
• 状況:支持脚・配管・入隅出隅が密集。既存はモルタル押え。
• 対策:
1) 入隅R成形→CSM300先行で追従性確保。
2) CSM450×2層で面の厚み。脚周り200mmは+1層。
3) トップはノンスリップ仕上げ。
• 結果:一年点検で割れ・漏水ゼロ。清掃性も良好。
11-2. 廊下の局部荷重(台車・脚立)
• 状況:台車走行・脚立使用が頻繁。
• 対策:CSM600+450で厚み。角部はロービングクロス補強。
• 結果:押しキズ・白化なし。歩行感は硬質で良好。

 

12. 現場5分チェックリスト ✅
☐ ガラスマット目付け(300/450/600)と層数の確定
☐ 樹脂:MEKP比率・ポットライフの設定(気温連動)
☐ 下地の含水・脱脂・研磨の完了
☐ 入隅R(10〜20mm)・出隅パッチの準備
☐ 重ね幅50mm以上・エア抜きローラーの常備
☐ 層間の足付け研磨・粉塵除去・脱脂ルーチン
☐ トップコートのパラフィン添加/骨材の指定
☐ 臭気・火気・近隣掲示など安全配慮の実施

 

13. まとめ—“薄く均一に、層で勝つ”
FRP防水は積層の学問です。目付けの組合せで追従性と厚みを最適化し、小分け×層数で発熱を制御。入隅R→先行300→本層450という勝ちパターンを軸に、露点管理・脱脂・研磨を怠らず、トップで機能(滑り止め)×意匠を仕上げる。これだけで、硬くて強い“長寿命FRP”が実現します。

 

次回予告:「第9回 シート防水(塩ビ・ゴム・TPOの特性と溶着)」—機械的固定/接着/加熱溶着、可塑剤移行、風荷重、端末金物と水返し、複合納まりの要点を徹底整理します。

 

 

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株式会社NSK~ウレタン塗膜防水の実践(膜厚管理・ピンホール対策)~

皆さんこんにちは!
株式会社NSK、更新担当の中西です。

 

「ウレタンは膜厚=寿命」。同じ材料でも、均一な厚みとピンホールゼロを実現できる現場は耐用年数が伸び、クレームも激減します。本回は、WFT(湿膜厚)と総量(kg/㎡)の二重管理、ローラー/スキージーの使い分け、ピンホールの未然防止と是正、そして雨天中断からの復帰まで“勝ちパターン”を実務目線で解説します。

 

1. 目標を数値化する—設計膜厚と使用量のリンク
• 設計総膜厚:用途に応じて
o ベランダ・庇:1.5〜2.0mm相当
o 屋上(通気緩衝):2.0〜3.0mm相当
• 管理は総量(kg/㎡)で:乾燥・反応で厚みは痩せるため、メーカー規定kg/㎡×施工面積で必要量を算出→搬入数量=上限とする。
• 配分:1層目:40〜60%、2層目:60〜40%。立上り・端末は+20〜30%増しを前提に見積もる。

 

2. WFT(湿膜厚)運用の勘所
• WFTゲージを各所5〜10点/50㎡の密度で測定。入隅・ドレン周り・端末に測定ポイントを偏らせる(不利な箇所ほど厚め管理)。
• 測定のタイミング:塗布直後〜数分以内。温度・風で流れやすい面は早めに。
• 記録:図面に測定値をプロットし、写真にゲージ数値を写す。日報に平均値・最小値を残す。
• 合否の思想:平均○mmではなく、最小値□mmを下回らないことを合格基準に。

 

3. 施工ツールの最適化—ローラー vs スキージー
• ローラー(中毛〜短毛):凹凸追従性・空気抜きに◎。1層目のピンホール潰しに有効。
• スキージー:平滑面の均一膜厚に◎。広面積を一定速度で押し引きすると仕上がりが安定。
• ハイブリッド:押し引きスキージー→ローラー転がしで流れ・泡を消す“合わせ技”。
• ツールの清浄:硬化片混入は線状欠陥の原因。層間ごとに新調 or 溶剤洗浄。

 

4. ピンホール発生メカニズムと予防学 
• 原因:
1) 下地の含水・空隙からのガス放出
2) 過度な撹拌で気泡を抱き込み
3) 厚塗り一発で内部に泡を封じ込め
4) 高温・低湿で表面だけ先に皮張り
• 予防“4種の神器”:
o 通気緩衝+脱気筒(含水・ガス対策)
o 気泡止めプライマー(第5回)
o 薄塗り多層(1層を薄く→層回数で厚み確保)
o ローラー仕上げ(表層の泡抜き)
• 攪拌のコツ:
o 低速で撹拌羽を底から全周動かし、渦を作らない。
o インダクションタイムが必要な二液型は待ち時間を厳守。
• 温湿度:表面温5〜35℃、湿度85%以下、露点差3℃以上をキープ。

 

5. 立上り“2倍理論”と端末厚み設計
• 立上り・入隅・出隅は応力集中が大きく、膜厚を面の1.5〜2.0倍で設計。
• 手順:先行で補強布+2回増し塗り→面の層と一体化。
• ドレン・貫通部:周囲200mm幅で“+1層”をルール化。

 

6. 雨天・中断からのリカバリープラン 
• 降雨前の“切り位置”:端末・立上りまで完結した区画単位で工程を切る。途中で面を残さない。
• 雨打たれ:
o 未硬化→除去して再施工(無理な上塗りは界面不良)。
o 半硬化→研磨→脱脂→プライマー再塗→上塗り。
o 硬化後→足付け研磨+清掃で再開。
• 層間最大オーバータイム:仕様書の再塗り可能時間を越えたら足付け+プライマーを原則に。⏱️

 

7. 品質の“見える化”—ITPと写真標準
• ITP(検査計画):
o 施工前:含水・温湿度・露点差のログ
o 1層目:WFT測定点マップと数値写真
o 中間:ピンホール・段差の是正記録
o 2層目:使用量(kg/㎡)とWFT再測
o 仕上げ:色むら・艶・膜厚最小値の確認
• 写真の型:広角→中景→寄り→ゲージ・秤量の数値を写す。

 

8. トラブル事例と是正手順
• ピンホール散発:
o 原因:下地気泡 or 厚塗り。
o 是正:#120〜180で面研磨→気泡止めプライマー→薄塗りで再被覆。
• 泡噛み(ブリスター):
o 原因:含水閉じ込め。
o 是正:切開→乾燥→通気層補修→脱気筒増設→再塗。
• 流れ・だれ:
o 原因:傾斜面の過剰塗布。
o 是正:粘度調整(仕様範囲内)or 層数を増やして薄塗り。
• 白化(ブラッシング):
o 原因:露点差不足・霧雨。
o 是正:研磨→脱脂→再塗。時間帯の見直し。
• 付着不足:
o 原因:脱脂不十分・粉塵残り。
o 是正:高圧洗浄→乾燥→プライマー再施工。

 

9. ケーススタディ
9-1. 開放廊下(通路使用を止められない)
• 条件:夜間しか止められず、朝には通行再開。
• 運用:夜間1層→朝まで養生。立上り先行完了。通気養生で臭気を抑制。
• 結果:3夜で完成。歩行傷なし、ピンホールゼロ。

 

9-2. 夏季の屋上(表面温60℃近い)
• 条件:日中は高温・強風。
• 運用:早朝・夕方施工へシフト。1層目を薄塗り、2層目は日没前に仕上げ→夜間硬化。
• 結果:白化なし、気泡なし。膜厚最小値2.0mm確保。

 

9-3. 複雑ディテールのベランダ
• 条件:手すり脚・配管・出隅入隅が多い。
• 運用:小面積→大面積の順。先行で補強布+2回増し塗り。
• 結果:端末割れゼロ、鏡面に近い仕上がり。✨

 

10. 現場5分チェックリスト ✅
☐ 設計総膜厚と総量(kg/㎡)の算定・搬入
☐ WFT測定点マップと最小値基準の設定
☐ ローラー×スキージーの役割分担と清浄
☐ 立上り2倍理論に基づく増し塗り計画
☐ 雨天・中断時の切り位置と復帰手順
☐ 気象条件(露点差3℃・湿度85%以下・表面温)ログ
☐ 中間是正(ピンホール・段差・泡)完了写真
☐ 仕上げ後の最小膜厚と外観確認

 

11. まとめ—“薄く、速く、重ねる”のリズム
ピンホールは敵ですが、正しい段取りでほぼゼロにできます。薄塗り多層+ローラー泡抜き+通気×脱気というリズムに、WFTと総量の二重管理を重ねる。これが、再現性の高い“強い膜”を作る最短ルートです。

 

次回予告:「第8回 FRP防水(ガラスマットの選定と積層)」—ガラスマットの目付け選定、積層順序、角部の増し張り、アセトン拭きと離型対策、硬化管理まで“軽くて硬い膜”の作り方を掘り下げます。

 

 

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